フランス留学生の日記

時々更新!フランスでの日々を投稿しまーす!

本棚16 『LE SOUVERAINISME』Thomas Guénolé

4月21日(木)à トゥールーズ。最高気温14°。
午前中は雨で、午後からは曇り。少し寒かった。


久しぶりの本紹介


Le Souverainisme https://www.amazon.fr/dp/2715408366/ref=cm_sw_r_awdo_01R8PQ8PT4H0QW7X0BXX

2021年12月に出たまだ新しい本。
※日本語訳はない。


政治権力の本質的な概念を見つめ直す目的で先週購入した。

1992年:
フランス人の48%がマーストリヒト条約批准にNon!

2005年:
フランス人の55%が欧州憲法条約にNon!

2017年:
フランス人の48%がEUから一部または全体的に撤退を主張するルペン、メランション候補に投票!

など、フランス人の半分は右派左派に関わらずSouverainisteであるという。



政治の世界で今後とも重要となるであろうSouverainismeについて歴史を通して理論的にまとめたのが本著だ。

最初のページに

Souverainismeとは民族共同体の独立性、自治性、自立性の向上を提唱する政治理論

とある。

歴史的(本著ではカナダのケベック州の歴史をこの概念の誕生としている)に見て、Souverainismeが起きる段階として、
1.政治色のない文化的側面(特に文学)から生じる

2.政治色の強いマイノリティーの人々による積極的な活動(暴力活動も含む)

3.カリスマ政治家による指導

の3つの段階があるという。


さて、souverainismeを理解するためにはベースとなる重要な3つの概念を理解する必要がある。
État
Étatとは辞書では「国家、政府」と出てくる。
ただ、政治学では「決められた地域やそこに住む人たち上で保持される排他的な力、権力」と理解される。制度としての国家と言える。

これを理解するには、
1.l'élément personnel(個人的要素)
→要するに人口、住民
2.l'élément matériel(物質的要素)
→これが主権を強める役割を果たす
3.l'élément juridique(法的要素)
→独占的な政治権力

があることを知ることが重要。

因みに国家には
・État unitaire(単一国家)
国民国家としての独立性

・État fédéral(連邦国家)
→単一主権の下で支分国家によって集合的に構成される国家。外交権は無いものの独自の憲法をもち,大幅な自治権を保持している。
ex)アメリカ、カナダ、スイス等
※こちらがある意味souverainetéの基本的な属性と言える

の区別がある。


La souveraineté
Souverainetéとは辞書をひくと「主権、最高権限」と出てくる。
その名の通り、国内においては最高権力、国外においては最高独立性(対外主権)として理解される概念。


La nation
こちらは言語、文化、伝統、芸術などを基礎にまとまった民族的な人間社会(コミュニティー)のこと。ただ法的に認められた存在ではない。
18世紀に入り、産業革命の影響で生まれた概念。
※18世紀のフランスには人工統計上の均質性がなく、まず言語政策でフランス語を国語とした。

そしてnationを理解するために次の4つの要素を理解する必要がある。
1.civique(市民)
→市民間で契約的、政治的な繋がりを持つ人間社会(コミュニティー)
2.ethnoculturelle(民族文化)
→これがLa nationのある意味本質となる部分で、言語、文化などの民族的コミュニティー
3.marxiste(マルクス主義)
→経済発展において階級社会からの解放を目指す。フランスでは一定の力を持つ
4.économique(経済)
保護貿易や自国の通貨制度を保護かつ独立性を唱える

「国家」とは学問ごとにその定義は異なる。ただ国家と一概に言っても政治学上ではこの①〜③が複合的に混ざり合っているのが「国家」ということになる。

そして本著ではこの①〜③の概念を丁寧に説明した後、フランスのsouverainismeを歴史を通して説明している。


個人的に面白いと思ったのは、極右と言われているマリーヌ・ルペン女史の率いる国民連合(RN)の前身である国民戦線(FN)にはこのsouverainismeを理論的にまとめ上げたFlorian Philippot(フロリアン・フィリッポ)氏の役割が大きかったと知ったことだ。
彼はド・ゴール主義者を自認している。
ド・ゴール主義者として有名な政治家にはジャック・シラク元大統領がいる。
ただ、今回のフランス大統領選挙に出馬したエリック・ゼムール氏もド・ゴール主義者を自認していた(出馬表明がド・ゴールレジスタンスを訴えたあの歴史的な6月18日の演説を真似た物だった)。

誰かが「99%の嘘をついてもそこに1%の真実があればそれが真実となる」と語った。
これは政治の世界でも言える。
一部分を見ればド・ゴール主義者だし、他の点から見たら全く違う別物となる。


だからこそ政治の概念や政治思想はしっかりその本質を学ばないといけない。


本著を通してSouverainismeの概念を政治学歴史学から理解出来た。
極右極左に関わらず、この思想がフランス社会、フランス人の根底にあるのなら我々日本人も学ぶことが多いのかもしれない。

大学でテキストとして使われてもいい本だと思う。

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