フランス留学生の日記

時々更新!フランスでの日々を投稿しまーす!

本棚24 『Nécessaire Souveraineté』Coralie Delaume

久しぶりに読了した本紹介。

先月末に購入したものの、滞在許可証関係でバタバタした関係で読めていなかったのだが、昨日今日で読んでみた。

 

EUや民主主義への絶望を声高に訴える方はこちらにたくさんいる。だが、私は現在の政治に何が足りないのか?何を変えなければならないのか?を冷静にそして感情論抜きに自分なりに調べたくなった。そして色々と本屋の棚を物色しているときに出会ったのが本著だった。

 

著者はどんな人???

著者のCoralie Delaume氏は1976年生まれのフランス人ジャーナリスト、エッセイスト。フランスの名門校の1つであるグルノーブル政治学院卒業後自身のブログを立ち上げ、積極的に政治的な発言をしていた。論点の中心にはsouverainetéがあり、もちろんEUには懐疑的(というか消滅すべきと書いている)。ただだからといって思想的に偏りがあるわけでもない。日本にいる両極の言論人はその論調にも人間的にも胡散臭さがありますが、この著者にはそんな胡散臭さがない。

惜しいことに2020年12月44歳という若さで亡くなられました。

 

フランスに来てから私の個人的な研究テーマの1つになっているSouveraineté。

思い返せば戦後の日本はこの言葉を忘れているのでは???と学生時代から思っていた気がする。ゴーリズムに関心を持ったのはそんな問題意識からだったように思う。

以前これに関しての入門書を読み紹介した↓のだが、今回はもっと突っ込んだ内容だった。

masafra.hatenablog.com

 

 

内容

本著作は2020年3月31日のエマニュエル・マクロン大統領が医療品を扱う工場(特にマスク)を視察された際の

Il nous faut rebâtir notre souveraineté nationale et européenne.

という彼の演説は矛盾していないか?という所から始まる。

 

コロナ危機に際して自国でマスクも十分に生産出来ず、またコロナ患者を自国の医療体制で支えることができないという事実はSouveraineté (主権、最高権限)、特にsouveraineté nationale(国家主権)とsouveraineté populaire (国民主権)を再考するいい機会であると。

 

Nationという人種的、文化的、言語的な人の集まりが法的に認められたのがÉtat (国家)だ。その国家が持つ本質的な力が国家主権であり、この国家主権なくして国民主権は成り立ち得ない。

※国家主権というと怖いイメージを与えてしまうが、その定義としては、国内においては最高権力、国外においては独立性(誰にも服従しない)を意味するもので世界的に見ても政治的にみても当たり前の言葉。

 

この定義のあと、

Souverainetéがどのように考えられてきたかを現代政治経済の潮流から紐解いていく。

ネオリベラリズムが世界経済にどれほど悪影響を与えているか、またEU加盟国が課せられる金融政策は国家主権の制限に他ならず、国家や政治家ではない金融関係者やその取り巻きが各国の経済、金融を実質統治し(それが結果的にSouverainetéの意識を失わせている)、富める国とそうでない国の格差を拡げていると指摘する。

現在のEUの金融政策によって起こる弊害は換言すれば、皇帝のいない「帝国主義」であると。

 

そして問題点を指摘したあとの最終章では代替案をしっかり書いている。

それは、

 

グローバリゼーションと各国を中心としたヨーロッパの再構成

 

であるという。

 

感想

読み終えてから新しい発見をしたようで何度も読み返した。

大学時代ある教授は「EUは壮大な政治的な実験であり、そして人類の希望である」と生徒達に語っていた。

なので何の考えもなしに「EUはいいものである」と私は思っていた。フランスの大統領選挙で反EUを声高に主張する人たちは思想的に偏りがある野党気質の文句屋たちという偏見がなくもなかった。

だが、本著作を読んで上記で書いたように私が日本政治に対して抱いていたまさにSouverainetéの欠如が現在のEUでも政治的な問題の本質であり、ヨーロッパ政治は今後ますます迷走していくのではないか?という不安を抱いた。

 

とかくナショナリズムとごっちゃにされてしまうSouverainisme。

私は政治思想に関しては専門ではないが、多くの世界的に著名な思想家、哲学者を輩出しているフランスでそれを少しずつじっくり学ぼうと思う今日この頃。